ボランティアというもののあり方がごく身近に語られ、考えられるようになったきっかけは、不謹慎を承知で言えば、1995年1月17日早朝、阪神・淡路島を中心として起こった地震からではないでしょうか。その後、日本海でのロシアタンカー転覆による重油流出に伴うボランティア活動に対する社会の評価など、ボランティアの認知度は一挙に高まったような気がします。
私の(というよりはロータリーもそうであるように)ボランティアの基本的考え方は、まず関心を持つこと、そして背伸びすることなく自分ができることから始めること、そして、特に災害など時間のないものに関しては、いかにすばやく対応できるかがポイントになると思います。
ロータリー国際大会で知り合ったブラジルのロータリアン、ホセ・バチスタ氏は遥か南米のブラジルから、阪神淡路島大被災の被災2週間もたたないうちに、「わずかな金額ではあるが」という謙虚なメッセージとともに、13800ドルの寄付金を送ってくれた一人でした。一刻を争う災害の時は、これほどうれしい行為はありません。
メディアの発達により、事件や災害の報道は世界同時、ほぼアップデートに伝わる時代になりました。とはいえ、リアクションはそれぞれの事情や思惑によってまちまちです。1380ドルという金額が多い、少ないという次元を越えて、地球の裏側の人間が、何人かに声をかけ、そして集めてくれた貴重な援助金であることは疑いの余地もありません。
こんないきさつを経て、私はホセ氏に何かこちらからお手伝いできることがあったら言ってほしいという問いかけをしました。そして返ってきたのが、薬物中毒患者向けリハビリセンター「ベテル・プロジェクト」への協力要請でした。
ベテル・プロジェクトの概要はこんなものでした。どこのリハビリセンターであっても同様ですが、センターではそれぞれ自活するための職能を身につけることを目的としてプログラムされ、従ってセンター内では食事から始まってすべて自分の事は自分で行う自立を前提としています。現在、ホセ氏をはじめ会員がセンター建設に協力し、またブラジル人の有名な歌手によるチャリティーコンサートなどによってたくさんの寄付金があったため、7000ドルほど集められていますが、毎月数十人の入所者がいるため、その維持費に継続的に費用がかかるという内容でした。
そんな養成があってから、私は、阪神淡路島大震災へのすばやい彼の援助に報いてあげたい気持ちもあって、まず、薬物患者リハビリテーションにおいては経験の深い、台湾のジョセフィン女氏に協力を要請、その専門知識をいかんなく発揮してもらおうと、ブラジル訪問も快諾してもらいました。同時に、香港、タイ、インドネシア、フィリピンにも協力を要請したのです。
ところで、ホセ氏の活動は薬物患者のリハビリセンターのみに留まらず、さまざまなプロジェクトを展開しています。そのひとつが、低所得者向けのシェルター建設です。さまざまな事情で住む家がない、夫や家族の暴力で家を飛び出した母子など、とりあえず安住のシェルターを提供してあげることを目的とし、広大な土地を寄付によって取得して、一軒当たり2000ドルで建設を進めています。
ホセ氏は、これらのプロジェクトを国際的な規模にして、薬物患者救済のみに限定しない、広く社会の底辺にいる人々の生活向上のために尽力しているのです。
阪神淡路島大震災への援助をきっかけとして始まったプロジェクトから、薬物患者のリハビリ、シェルター建設など、この幅広い広がりこそロータリーの真骨頂なのではないでしょうか。