もし、あなたのそばにフィリピンの人がいたとします。そして、こんな質問をします。 「あなたは、ホセ・リー・フェーボスさんを知っていますか?」
「知らないわけはないだろう!!」といったら、その人は間違いなくフィリピン人です。
「えっ!! だれ、それ?」と聞き返す人がいたらフィリピン人として疑ってもいいかもしれません。
大統領の名前を知らなくても、ホセは知っている、こんなエピソードが生まれるほどホセ・リー・フェーボス氏はフィリピンにおいては超有名人であり、まさに英雄なのです。
そうです、麻薬捜査官としての彼の名はあまりにも有名で、彼の麻薬組織に対する挑戦、正義漢として実績を残した彼をモデルとした映画も製作され、さらに知名度は増幅されたのです。
麻薬シンジケートのドンも恐れる、フィリピンきっての麻薬取締官ホセ・リー・フェーボス氏。彼の麻薬犯罪に対する姿勢はたいへん厳しく、犯罪者はその名前を耳にするだけで震え上がるといわれています。
捜査の段階で、いく度となく生命の危機に遭遇したこともあり、実際、麻薬シンジケート団はフェーボス氏への報復も考えているそうです。しかし、彼は麻薬犯罪が完全になくなるまで敵と戦うことを決意し、いつしかフィリピンの「ダーティー・ハリー」と呼ばれるようになりました。
「ダーティー・ハリー」の異名をとるだけに、がっしりしたマッチョマンかと想像しがちですが、意外に小柄な体つき。ふだんの彼はにこやかで、とても犯罪者に恐れられるような人物にはみえません。しかし、威厳を持った髭、眼光の鋭さは修羅場をくぐった人間だけが備えている近寄りがたさを持っています。ひとたび敵に遭遇するやいなや、その表情は一変し、敵を震え上がらせます。自分の命をも顧みずに敵に立ち向かう彼は、フィリピンの人々にとってはまさに国民的英なのです。
それでは、彼は捜査・逮捕権を持った単なる暴れん坊なのかといえば、決してそうではありません。確かに、フェーボス氏は、麻薬シンジケートにとっては鬼のような存在ですが、薬物によって人生を狂わせてしまった人々のために、自らをモデルとした映画のロイヤリティーによる収益金で麻薬患者のためにリハビリテーション施設をつくり、彼らの社会復帰に陰ながら尽力しています。
この厳しさの反面、奉仕の精神を身につけたフェーボス氏は、まさに「罪を憎んで人を憎まず」を実践しているのです。
彼の人間としての幅の広さは、麻薬組織に対する徹底的対決姿勢と、麻薬の道に迷い込んでしまった人間の社会復帰の手助けをするという両面に現れています。
麻薬組織に対する徹底的対決姿勢の一貫として、後進にその理念と勇気、そして捜査技術を伝えるために、現在彼は第一線を退き、麻薬中毒患者のリハビリセンターで彼らの更正に力を入れる一方、警察学校で麻薬取締官の育成も行っています。
ホセ氏の取り締まりの上での徹底した厳しさは定評がありますが、現在は、そのパワーの全てを更正のためのリハビリに注いでいます。ホセさんには、見失いがちな人間の正義の可能性と、限りない優しさが存在することを改めて教わったような気がします。